農業法人における雇用労働力の実態と人材育成課題

農家では高齢化や後継者難で離農が進む一方、それら離農跡地の受け皿となって経営規模の急速な拡大や事業多角化にも取り組む農業法人などの経営体が増加しています。
 農研機構のマネジメント技術プロジェクトでは、将来の地域農業の担い手と目される雇用型大規模法人に注目し、それら経営の育成に必要となる各種経営管理技術の開発に取り組んでいます。

1.農業法人における雇用労働力の実態
 近年、地域の高齢農家の離農と担い手の減少に伴い、経営規模の拡大を積極的に進めるとともに、農産物加工や地産地消を意識したレストランを開設するなど、事業の多角化も図る大規模な農業法人が増加しています。そして、それらの経営では、経営戦略を遂行するために、家族以外の人を従業員として雇用する雇用型経営として展開しています。
 これらの動向を2015年農林業センサスの結果から確認すると、表1は、経営耕地面積規模別に見た農業経営体数の推移を示しています。2010年から2015年にかけて、合計で30万ほど経営体の減少が見られますが、それらは5ha未満層での減少に由来するものであり、10~20ha層を中心に5ha以上層は一律に増加しています。
 このように大規模経営が増加するのに伴い、農産物販売金額規模でも金額が高い層の増加が見られます。表2は、農産物販売金額規模別の農業経営体数の推移ですが、3,000万円以上層で一律に増加しており、2015年時点で農産物販売金額1億円以上の経営体は6,549あります。

農産物の販売金額が多い経営体では、農産物加工や消費者への直接販売などの「農業生産関連事業(6次産業化)」を行う経営体が増えています。農産物販売金額規模別に見た農業生産関連事業を行う農業経営体数の推移は、農産物販売金額が5,000万円以上の層では、2010年から2015年にかけて、関連事業に取り組んだ経営体数が増えています。

一方で、関連事業を行う経営体数は合計で10万ほど減少していますが、これらの多くは農産物販売金額500万円未満層での減少に由来するものと考えられます。

小規模層を中心に離農が進む中で、それら離農者の農地を引き受ける形で大規模経営が増えています。そして、それら大規模経営では農産物加工などの関連事業に取り組む経営体が増えてきています。こうした大規模経営の多くは、法人経営と考えられます。2010年から2015年にかけて、法人以外の経営体(法人化していない家族経営等)は30万ほど減少していますが法人経営は21,627から27,101へと5,500ほど増えています。

 規模拡大と、事業の多角化を進める法人経営では、雇用労働力、特に常時雇用労働力は経営成長を図る上で欠かせない経営資源といえます。

常時雇用労働については、雇用者数および雇い入れた経営体数ともに増加しており、家族以外の従業員が重要な経営資源となってきていることが分かります。

さらに、農産物販売金額別に常時雇用労働力の導入実態を示したのが表5です。まず、常時雇用労働力を導入している経営体の割合は、販売金額の増加とともに増え、販売金額5,000万~1億円の層になると半数の経営体が導入しています。導入している経営体において、一経営体当たりの常時雇用者数は、5,000万円未満の層は2~3名ですが、5,000万円以上になると5名以上導入しています。最後に、各層別に見た常時雇用者の年齢分布ですが、販売金額が増加するほど65歳以上の常時雇用者の割合は減少し、一方で44歳以下の常時雇用者割合が増加する傾向にあります。したがって、農産物販売金額が高い経営体ほど、人材の新陳代謝がうまく図られていると推測されます。

 

高い離職率が農業従事者の中でも問題になっています。

 このように農業法人で働く人が増える中で、そこでの労務管理や人材育成に対する関心が高まっています。農業法人における労務管理や人材育成の実態について詳細なアンケート調査で、農業法人における3年以内離職率は45.7%と算出されています。
 3年以内離職率が45.7%ということは、採用した人数の約半数が3年以内に辞めることを意味します。法人側から見れば、離職率を改善しないことには、人材育成に要した時間やコストの多くが無駄になってしまいますし、経営内で将来中核的な役割を担う人材の育成もできません。そのため、離職率の改善は、農業法人の雇用労働に関して、喫緊の課題といえます。

高い離職率の要因を探るために、従業員に対する「辞めたいと考える主な理由(第1位)」は「給与額が低い」21.8%、「独立したいから」20.7%、「勤務先に将来性を見出せない」9.6%、「人間関係がうまくいかない」9.0%となっています。

また、「今の職場で働き続けるために職場内で実施して欲しいこと(第1位)」の回答結果は、「給与水準の引き上げ」29.3%、「能力開発の支援」12.8%、「先輩職員によるフォローの実施」10.5%でした。

 これら2つの回答結果から、離職率の改善に向けて、2つの方策が見出せます。1つ目は、給与水準の引き上げです。しかしながら、農産物価格の低迷が続く中で、給与支払いの原資となる販売収入を増やすためには、販売先や販売方法を変えたり、6次産業化に取り組むといった事業の改変が必要になりますが、それらは容易に達成できることではありません。

 もう1つの改善方策は、人材育成の充実です。上記の結果から、「能力開発の支援」や「先輩職員によるフォロー」を実施し、「勤務先に将来性を見出せない」「人間関係がうまくいかない」といった要因を改善していくことが離職率の改善につながるといえます。すなわち、現在の勤務先にいることで自身の成長が感じられるよう人材育成の取組や職務内容を充実させて、働きがいを向上させることが重要といえます。さらに、経営者と従業員間で円滑なコミュニケーションがなされ、採用年数が浅い社員をフォローする組織風土を構築することもあわせて重要といえます。

 離職率の改善に向けたこれら2つの方策のうち、給与水準の引き上げは外部環境に影響を受けやすい方策といえますが、人材育成の充実は、外部環境にあまり左右されず、経営者の努力や取組方次第で成果が出やすい方策といえます。そのため、取り組みやすさという点では、人材育成の方が容易であるとともに、組織の成長のためにも、人材育成を充実させていくことは必要不可欠と考えられます。

キャリアパスと職務遂行能力

 農業法人の営農部門に関するキャリアパスですが
 まず、入社した当初は、一般従業員として、一通りの作業の流れや内容を覚えることから始まります。そして、OJTやマニュアルを通して、作業のやり方や機械操作を覚えていきます。

この段階では、経営者や営農部長、現場リーダーなどの作業指示を受け、その指示通りに着実に業務を遂行することが求められます。

 

次に、経営規模が拡大してくると、経営者が毎日圃場に出て、天候や進捗状況に応じた作業指示を行うことが限られた時間の中で困難となってきます。そのため、一般従業員とともに作業をするだけではなく、状況に応じた作業指示や要員配置といった作業の進捗管理を行うとともに、作業遂行に関わる問題発見と業務改善を行う「現場リーダー(マネジャー)」を配置することが求められます。

 

現場リーダーは、経営者層や営農部長等の管理者層とコミュニケーションを取りつつ、作業計画から乖離しすぎないよう、そして従業員の労働負荷が大きくならないよう配慮した上で、天候や進捗状況に応じた作業指示や要員配置を行うことが求められ、生産現場における重要な役割を担います。なお、こうした現場リーダーは、職階においては、作業別やエリア別、品目別責任者という役職で呼ばれることが多いです。

 営農部長のような生産部門の責任者に求められる職務遂行能力は、販売計画と連動した作付計画の作成や、無理のない作業計画の作成、さらには生産現場に関わるすべての従業員の労働安全管理などが挙げられます。なお、経営規模や組織構造にもよりますが、これらの職務を現場リーダーや経営者層が担うこともあります。

最後に、経営者層においては、事業内容や設備投資の決定、財務管理や人事労務管理など、法人の売上高や利益に直結する意思決定や管理業務が求められます。また、営業や視察対応などの対外業務を、経営者が行う法人も多く見られます。

このように、農業法人が生産活動を安定的かつ効率的に行うためには、日常作業を担う一般従業員の技能育成とともに、作業の進捗管理や業務改善などの「作業遂行マネジメント」ができる現場リーダーの育成が重要と考えられます。

特に、「作業遂行マネジメント」能力については、経営者から、「人を使って作業を進められる人材が欲しい、育てたい」、「オペレーターは替えが効くが、農場全体を見渡して作業の指示出しができる人間は替えが効かない」、「指示出しできる人間が経営者一人だけでは、経営者に万が一のことが起きたときに、生産の継続が困難であり、作業指示ができる人材を育てたい」といった現場がおおくあります。