農業経営法人化について

1 農業法人と農業生産法人
農業法人とは、法人形態によって農業を営む法人の総称です。
「法人」とは、法律に基づき、団体に法律上の「人格」を与えられたもので、一般
の人間(自然人)と同じように法律上の権利・義務の主体となることができます。
農業法人は、制度の面から大きく次の2つに分けることができます。
① 会社法人(会社の形態をとるもの)
② 農事組合法人(組合の形態をとるもの)
会社法人は、営利を目的とする法人で、株式会社などが代表例としてあげられます。
これに対し、農事組合法人は、農業経営等を法人化するため、農業独特のものとして設けられたものであり、いわば協同組織的性格を有しています。

2 「農業生産法人」と「農業法人」は違うのでしょうか。
農業法人は、農地を利用するか否かによって、「農業生産法人」と「その他の農業法人」に大別されます。
農業生産法人というのは、農地法で規定された呼び名で、農地や採草放牧地を利用
して農業経営を行うことのできる法人です。農業生産法人になるためには、農事組合法人(農業経営を行うもの)、合同会社、合名会社、合資会社又は株式会社(株式の譲渡制限を定めるもの)で、農地法に規定された一定の要件(事業要件、構成員要件、業務執行役員要件)を満たす必要があります。
いわゆる野菜工場でのトマト栽培、ガラスハウスでの花き栽培、鶏舎での養鶏など、農地を利用しない経営の場合は、農業生産法人の要件を満たしている必要はありません。

3 農業経営の「法人化」について
本道の農業生産法人数は、平成に入ってから順調に増加してきており、特に15年以降は毎年約100法人程度増加し、22年には2,642法人となっています。このうち1戸1法人が1,559法人と全体の約6割(61.0%)を占めています

「加工や販売など経営を多角化したい」「後継者となる優秀な人材を確保したい」「仲
間と力を合わせ、地域農業を守りたい」など、これからの経営展望を考えている方に
は、「法人」という制度を活かし、力強い組織経営づくりを実践することによって、
これらの目標を実現する大きな可能性が拓かれてきます。
法人化するに当たっては、なぜ法人化するのか。その意義や目的を明確にすること
が大切です。
補助金や融資制度、税制上の優遇措置など目先の利益にとらわれるのではなく、将来的なビジョンや経営内容を見据えて、自らの経営努力を積み重ねていく中に、法人化による様々なメリットが追い風となって現れてくると考えて下さい。法人化によって「何かが変わる」のではなく、「何を変えるのか」に意識を置くことが重要なポイントです。

4 法人化のメリット及び義務・負担
項目\内容制度上のメリット法人化に伴う義務・負担税制・所得の分配による事業主への課・法人課税の適用が個人課税より税軽減。有利となるためには、一定以上・定率課税の法人税の適用。の所得規模が必要である。
・役員報酬の給与所得化による節・法人の場合、利益がなくても、
税(一部制限あり)。 最低限、道民税、市町村民税(均・使用人兼務役員賞与の損金算等割)の納税義務が発生する。


・退職給与等の損金算入。
・欠損金の7年間繰越控除(青色申告法人に限る)。
・割増償却制度(認定農業者である青色申告法人に限る)。
・転作助成金の特別勘定経理と圧縮記帳。
・農用地利用集積準備金(特定農業法人に限る)。
制度資金・融資限度額の拡大(認定農業者に限る)。
・スーパーL資金の「円滑化貸付」による無担保、無保証貸付(認
定農業者に限る)。

農業経営法人化のねらい

①農村社会の活性化・農地保全
②新規就農の受け皿
③経営の円滑な継承・後継者の確保
④規模拡大と農地の集約
⑤コスト削減と所得向上
⑥経営の多角化
⑦福利厚生の充実など

法人化のメリット及び義務・負担

1.法人化のメリット(利点)

 法人化をするにあたっては、なぜ法人化をするのか、その意義・目的などについて明確な意志を持たなければなりません。法人化をすることによって補助金を確保しやすいとか、税制上の優遇措置を受けやすいことなど、単純に目先の有利性だけを期待するのではなく、将来を見極めた上で、法人化をきっかけに、経営というものの考え方を正しく理解した上で経営者として自らの経営努力によってメリットは作り出されるものであるといえます。

 法人化のメリットを考える場合は、政策的意義や経営上のメリット、制度上や制度外のメリットといったようにいろいろの分類の仕方がありますが、ここでは制度上のメリットと制度外のメリットといった観点から説明することにいたします。

(1)制度上のメリット

A.税制

事業所得の税金が軽減されます
• 所得の配分により事業主個人に取得が集中することはありません。 1.役員や事業者に対し、報酬、給料等の支払いができます。受け取った所得者は給与所得控除が受けられます。
2.法人が個人から借用している土地、建物等に対しては地代、家賃を支払うことになります。
3.個人資金の利用に対しては配当金、利息を支払うことができます。
4.個人の行う事業を利用した場合には、相応の対価を支払う(資材費等)ことになります。
5.役員や従事者に対する退職金は損金として処理ができます。
6.退職金制度として中小企業総合事業団の実施している中小企業退職金共済制度、小規模企業共済制度(農事組合法人を除く)に加入し、掛け金は損金とすることができます。

• 各種引当金や欠損金、剰余金の扱いが法人税法適用で有利となります。 1.貸倒引当金、賞与引当金などの各種引当金の設定や退職給与の支払いなどができます。
2.一定の条件の下に割増償却や特別償却をすることができます。
3.個人資金の利用に対しては配当金、利息を支払うことができます。

• 事業税が非課税とされる場合があります。
 農地所有適格法人である農事組合法人の行う農業経営については事業税が非課税となります。

 

農地所有適格法人の場合は課税の特典を活用することができます
• 農用地区域内の農地を農業委員会のあっせんにより取得する場合は譲渡所得特別控除の800万円適用を受けることができます。
• 上記の場合は不動産取得税や農地等の登録免許税の軽減措置等の特例を受けることができます。
• 農業経営基盤強化準備金の適用が受けられます。
• 農業経営改善計画の認定を受けて認定農業者になることで、一定の規模拡大の場合には機械、施設等の割増償却が可能です。

B.制度融資
制度資金の融資限度額が個人より拡大されます。
役員の連帯保証で借入金に対応することができます。

C.社会・労働保険制度
社会・労働保険の加入で雇用労働の導入や雇用の安定化を図ることができます。
労働保険の加入で労働災害や失業の際に補償が行われます。
社会保険料や労働保険料の法人負担により福利厚生の充実が図られ雇用が安定化します。

D.農地所有適格法人の特性
法人として農地の取得や個人の農地を借りて(使用貸借権、賃借権)農業経営を営むことができます。
構成員が農地所有適格法人に対して貸し付けをした小作地については、小作地の所有制限の適用とはなりません。
法人化して認定農業者になると、一定の要件で農業経営基盤強化準備金を積み立て、損金算入することが可能です。

E.その他制度上の特性
法人は法律に基づいて設立されているため、登記事項や経営内容の報告が義務づけられ、金融機関や取引先との信用力が高まり事業の拡大を図ることが容易です。
法人の構成員としての肩書等が得られ、イメージアップにより取引の拡大を図ることができます。

(2)制度外(経営上)のメリット

家計と経営の分離が図られ、経営体として確立されます
• 家計は法人からの給料等で賄うことになります。 1.生活資金の定期化・定額化が図られます。
2.定期的、定額的収入により家計の計画化が可能となります。

• 所得は経営の参加者(構成員・従事者)に対して配分されます。 1.労務の対価として給料の支払いが可能です。
2.労務の対価等が確実に支払われ、参加者個人の人権が尊重されます。

 

経営が合理的に運営されます
• 企業的経営として会計が独立して行われます。 1.企業会計の規則で経営内容の把握が正確となります。
2.経営内容の明確化と組織的運営により、経営の合理化や改善計画が可能となります。

• 企業としての進展が可能です。 1.経営者としての社会的責任の自覚が確立されます。
2.企業としての効率性が追求されます。
3.従業員や顧客に対する意識の向上が図られます。

• 給与等の支払いによって労働意欲が増大することになります。 1.家族従事者に対する給与等人件費支払いにより個人財産の確立を図ることができます。
2.後継者・女性等の経営参加意識の向上が図られます。

• 信用の増大により取引の拡大が図られます。 1.取引先・量の拡大が可能となります。

• 雇用の安定的確保を図ることができます。 1.雇用契約の明確化により人材確保が容易となります。
2.給与等労務の対価の支払いが確立されます。
3.休日の確保等労働条件の改善が可能です。

 

その他
• 都合の良い時期に決算期を選択できます。
• 企業経営としての意識が向上し、効率性の追求や従業員、顧客に対する意識の向上など経営の意識改革が始まります。
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2.法人化のデメリット(義務・負担)

 現状の農業経営打開を求めて法人化に活路を求めても簡単にうまくいくものではありません。
 法人化は有利な面がある反面、一方では事務処理の繁雑さや金銭面での負担が増加することになります。これらは法人としての当然の義務や負担として発生するものがほとんどですが、これらを十分に熟知して取り組むことが必要です。

A.税制

規模が小さいと税負担等が増加することになります
• 所得の少ない経営では負担が増大します。個人経営では所得がない場合は所得税等の負担がありませんが、法人の場合は利益がなくても最低限地方税が8万円負担(福井県の場合は、都道府県民税均等割額2万円、市町村民税均等割額6万円)となります。
• 会計が企業会計規則によるため多少手数を要します。
• 会計事務や税務申告を専門家等に依頼する場合には経費負担が増加します。

農地の移転と課税関係

 

法人への農地提供方法

相続税との関係

 

売り渡した場合
1.売り渡しに際し、譲渡所得税が課税されます
2.農地の相続問題は解消しますが、法人の出資持分としての相続となります

現物出資した場合
1.現物出資の評価額に対し譲渡所得税が課税されます
2.農地の相続問題は解消しますが、法人の出資持分としての相続となります

貸付けた場合
1.譲渡所得税の課税はありません

B.社会・労働保険制度

社会保険等の加入に当たっては経費の負担が必要となります

C.運営管理費

法人を運営するためには、例えば作業の打ち合わせなどの経費がかかります

D.その他

廃止(解散)する場合には、手続きが複雑となっています
• 解散に当たっては、法人の財産はすべてを清算することが必要です。
• 解散から清算完了までは、最低2ヵ月間の期間が必要となります。
• 解散手続き等に当たり、熟知した指導者が必要です。