野菜作における産地・都道府県GAP導入事例 法人経営 の取組

島根県に位置する施設野菜作のD社は、細ねぎ、サラダほうれん草、サラダ水菜、サラダセロリなどの水耕栽培を行っている。近隣の水耕栽培農家とともに、2007年にJGAP団体認証を取得し、その後2011年には、島根県としてのGAP基準を含む「美味しまね認証」を取得している。GAP導入時に、作業時間や生育データ等の記録もとり、それらの記録を分析することで、労働時間の削減や収量の向上を達成している。

1) 地域及び組織の概要

施設野菜作の農業生産法人D社が位置する島根県雲南市は、島根県東南部に位置する山々に囲まれた自然豊かな地域である。農業生産に関して言えば、冬季日照条件が悪く、条件不利地域といえる。

D社は、建設業者6社、他13名が出資して、2002年に設立された。これら出資者である建設業者の従業員は、D社の運営に関わっていない。栽培品目は、細ねぎ、サラダほうれん草、サラダ水菜、サラダセロリである。

施設は、DFT湛液水耕が9棟(全て8.5m✕67m)、NFT薄膜水耕が9棟で、栽培面積は約1haである。これらの農場を、役員1名、正社員5名、パート6~12名で運営している。また、雲南市には、D社以外にも、18名の水耕栽培の生産者がいる。

2) GAPの導入について

D社が設立された2002年に、地域のJAが水耕野菜の集荷場を新しく建設し、そこで地域の水耕野菜の販売促進のために統一的なブランドを創設した。その後2004年に、ブランドとしての基準や統一感を定めるために、基本的な栽培方法などを記載したマニュアルを作成した。そして、マニュアルを2006年に改定した際に、GAPに関する項目を記載した。

外部の審査を受けることで、生産者のレベルアップを図りたかったため、2007年9月に、JGAPの団体認証を上記の水耕野菜ブランドの生産者16戸で取得した。団体認証における事務局は、地域のJAが担った。その後、2011年8月に、島根県としてのGAP基準を含む「美味しまね認証」(2010年開始)を取得した。

GAP導入に際し苦労した点は、他の生産者からGAPに対する理解を得るのが大変だったことである。その対応策として、外部の講師を招いてGAPについて講演してもらったり、生産者の中心人物を重点的に説得するなどした。特に不満が出たのは、①記帳の手間、②農薬と肥料の管理、③認証経費の3つである。記帳については、少しでも手間を減らす工夫をして現在に至っている。

3) GAPおよび農場の管理体制

D社における農場の運営は、ねぎ・セロリで1名、ほうれん草・水菜で1名の計2名の栽培責任者に加え、各帳簿のチェックや労務管理、全体の方向性や栽培管理の決定、作付計画の作成などを行う「統括チーフ」1名の合計3名が中心になって行われている。このうち、GAPの運営については、統括チーフが担っている。

D社では、GAPの認証のための記録だけではもったいないと考え、GAP認証に必要な記録に加え、作業時間や栽培情報も合わせてGAP導入時に記録することとした。具体的には、①作業時間、②生育データ、③病害虫の被害程度・品質、④ガス・水道・電気・天候などの情報も記録することとした。

4) GAP導入による経営改善効果

GAP導入による経営改善効果としては、上記の記録を分析することで得られている。例えば、作業時間のデータより作業ごとの平均時間を算出して作業効率について検討するとともに、さらにパートも含め従業員が複数の作業をこなせるように教育した結果、2008年から2013年の5年間で、総労働時間を2割削減し、人件費を約300万円削減できた。

また、作業時間や資材投入に関わるデータなどから、1パネル当たりの作業時間や資材投入は変わらないが、パネル収量にばらつきが見られ、しかも収穫できるパネル数を増やすよりも、1パネル当たりの収量を増やしたほうが最終的な収穫量が多いことを見出した。現在は、過去の生育データを活用し、表2-4-1のように収量向上を達成するとともに、収穫量も増加している。

5) 課題と今後の展開

今後の展開としては、作業の効率化や収量の向上などについては、今後も各種の記録を活用して追求していきたいと考えている。また、D社が立地する地域全体のことを考えれば、高齢化によりリタイアする農家の経営を引き継げる人材を育成していくことが課題である。この点に関し、GAPの導入により、各種の記録を取り数字化してきたことは、勘や経験に頼った知識の提供に比べ、人材育成の上で有利であると考えている。そして、将来的には、栽培データを活用して基準となる栽培マニュアルを作成し、誰でも一定の品質の野菜を栽培できる仕組みを構築することを目指している。

野菜作におけるJGAP導入事例  法人経営Eの取組

 

岩手県にあるE社は、2007年という早い時期からJGAPとGLOBALG.A.P.認証を取得している野菜作の農業生産法人である。当初は、会社の知名度向上のために認証を取得したが、GAPはコンプライアンスとして、農業経営をする上で最低限守るべきものと考えている。E社は新規就農者の受け入れにも積極的であり、GAPという指針があることで新規就農者への対応もスムーズにでき、彼らの独立をサポートしている。

 

 

1) 地域及び組織の概要

岩手県の有限会社E社は、2003年に設立された野菜作の農業生産法人である。経営者はもともと養豚を営むかたわら、青果卸を行っており、1998年ごろより生協との取引を開始、さらに取引を拡大するなかで徐々に野菜作へシフトし、2002年に養豚を中止し現在の法人を設立した。

経営面積は、ハウス0.87ha(30棟)、露地野菜2.4haで、主にゴボウ、小松菜、ホウレンソウ、水菜、ニラ アスパラガスなどを栽培している。現在、役員4名、従業員16名(うち正社員4名、研修生1名含む)で構成され、従業員の年齢構成は20代~70代と幅広い。なお、研修生に対しては独立就農を支援しており、これまでに独立した生産者とともに生産物の出荷を行っている。

農産物の販売先は、生協への出荷が約半分を占め、残りは外食企業や市場に出荷される。また、近年はごぼうの千切りやごぼう茶など農産物加工にも取り組んでいる。

 

 

2) GAPの導入について

E社におけるGAP導入は、まず2007年に、生協版のGAPを導入したことに始まる。当時、生協版GAPの導入検討されており、その時、生協の代表的立場であったE社で試験的に導入することとなった。

また、同じ2007年にJGAP認証制度が始まり、GAPに取り組むなら認証を取得して差別化を図るという狙いでJGAP認証を取得する。さらに、GAPに関する情報収集をすすめるなかで、国内認証事例のなかったGLOBALG.A.P.の存在を知り、新規参入であるE社にとって知名度を高める良い機会になると思いGLOBALG.A.P.認証も同時に取得している。

E社ではさまざまなGAPに取り組んでいるが、生協GAPでは○✕式で与えられた基準をクリアすればよいのに対し、JGAPなど認証制度では自らでマニュアルを作成して取り組む必要があった。そのため、自ら作業工程を精査しながらリスクを抽出してマニュアルを作るなど、それまで意識しなかった考え方、作業が必要であった。しかし、最初は販売面を目的として導入したGAPであったが、自ら考え、経営を見直す作業を進めるなかで、GAPが生産者のためのものと実感するようになり、より積極的に取り組むようになった。

JGAPの導入においては、日本GAP協会からの指導を受けながら、自ら指導員資格を取得して準備を進めた。とくに、帳票類の作成に関しては、農作業未経験者の従業員でも記入・整理しやすいようにすることを心掛け、常に従業員の意見を取り入れながら、認証取得後も改良を繰り返してきている。さらに、審査過程における審査会社とのやり取りのなかで、GAPの理解やさまざま情報が得られ、具体的取り組みの改善につながっていると感じている。なお、JGAPとGLOBALG.A.P.の審査は同時に行なっている。審査費用は、合計24~25万円程度で、これまでに審査を繰り返しているため、農場のシステムを理解してもらえスムーズに審査を行うことができている。

また、GAP導入に対する従業員の合意形成について、E社ではとく大きな問題は生じていない。導入前には一度説明会を実施したが、必ずしも従業員全員がGAPを充分理解している様子ではなかった。しかし、記帳などのやり方を指示していくなかで、日常業務という感覚で取り組んでいる。GAPを全て理解できていなくても、従業員がマニュアルどおり実施することで、経営としてGAPを実践することができている。

現在、E社では販売においてGAPをとくに活用はしていない。また、GLOBALG.A.Pを取得するものの、輸出などの取り組みも行なっていない。しかし、新規の取引打診が増えるなど、GAP取得により知名度や信頼向上に効果が現れていると実感している。

 

 

3) GAPおよび農場の管理体制

E社におけるGAPの推進体制は、会長が統括的立場に立ちながら、以前勤めていた会社で毒劇物の取り扱いやISOの管理に携わっていた別の役員1名が主導的立場に立ってGAPの導入や管理(肥料・農薬管理責任者等)を行なっている。

また、農場の全体的な管理は、会長と社長が中心となって行なう。販売計画と生産計画の策定は、取引先のニーズを把握しながらの作業で、日々取引先と付き合いのある者でないと判断が難しいため、毎年12月に会長と社長の二人で計画を検討し、作成する。また、施肥設計については、作付のたびに土壌診断(微粒要素)を行い、その結果をもとに会長が設計を行う。

日々の人員配置については、社長と農場長で検討を行ない、社長が従業員に指示する。さらに、農場長はトラクター等の機械やハウスの補修など機械や施設の管理も行う。栽培管理は、ハウス毎に担当者を決めてそれぞれに管理責任を与え、会長をはじめ全員で生育状況を確認する。

作業管理について、以前は、外出先から電話や口頭で作業指示していたが、指示が曖昧になってしまうこともあり、現在では作業指示書を作成するようにしている。作業指示書は社長が日々作成し、従業員は指示書に沿って作業を行った後、その作業記録を記入(指示書に記入欄)するようにしている。さらに、記入した作業時間は原価計算に用いている。

その他、データの記録・活用については、GAP導入以前から、単収や生産量、販売量などのデータを細かく記録、整理している。もともと流通業に携わっていたため、取引の上では、価格や取引量の変動を把握することが必要だと感じており、納品先別の販売数量などを細かく分析することで、販売戦略や生産計画を緻密に検討している。

4) GAP導入による経営改善効果

取引先に対する信頼向上:GAPによる取引先からの直接的な引き合いはないが、GAP認証取得により知名度と信頼度の向上につながっていると感じている。たとえば、新規の取引先から、農場現場を見ずに注文を受けることがある。こうした新たな取引拡大は、GAPの認証によりE社の農場管理・栽培管理が信頼されていることが大きいと感じている。

作業管理や生産管理の効率化:GAP導入により、農場が整理され、農薬の管理など無駄が省かれるようになった。また、細かなデータ取得を実践することで、施肥コストの削減などが実現できている。さらに、GAPのような体系的な基準があることで、規模拡大や消費者ニーズ(たとえば放射能検査等)への対応にしても、具体的にどうすればよいかということを迷うことなく取り組めるようになった。

従業員の育成、意識向上:栽培方法などは独自のものとして必要だが、GAPという指針があることで、新規就農者の受け入れ、独立をサポートが可能となっている。GAPはコンプライアンスとして農業経営をする上で最低限守るべきものである。GAPに取り組むことで、新規就農者においても、農業経営の基礎を学ぶことができる。さらに、従業員においては、GAPに取り組むことで、自社の農場とその生産物に対する自信につながり、E社で働くモチベーション向上にもつながっている。

野菜作のおけるGGAP導入事例   法人経営Fの取組

熊本県に位置する露地野菜作のF社は、延べ50haの面積で、ニンジン、ゴボウ等の根菜類を中心に野菜を栽培している。F社は、事業マネジメントをより良い形にするために、2007年にGLOBALG.A.P.認証を取得し、その後2012年には、第1回GLOBALG.A.P.アワードを受賞している。F社では、GLOBALG.A.P.認証および独自に開発した情報管理システムを活用して、事業のリスクマネジメントおよび業務の効率化が図られている。

1) 地域及び組織の概要
F社が所在する熊本県上益城郡益城町は、熊本市の東隣りに接しており、県中央部の畑作地域である。町内には平坦地から山間地まであり、その中でF社は中間地に位置する。
経営概要は、表2-6-1のとおりである。生産規模は年間延べ約50ha(圃場数で約140カ所)であり、ニンジン、ゴボウ等の根菜類を中心に8種類の農産物を生産している。
F社の事業運営は、会長以下4名の役員と社員15名、パート5名により行われている。社員15名のうち2名が農場マネージャーを務めている。この農場マネージャーとは、トラクターや収穫機の運転ができ、さらに臨機応変に作業の段取りの変更ができる者である。
販売先は国内だけに留まらず、農産物については2006年から香港、台湾などの東アジアに、また、農産加工品(切干大根)については2008年からヨーロッパへ輸出している。

5) 課題と今後の展開
GAPの取り組みを繰り返すことで、どうしてもマンネリ化することもある。しかし、GAPの認証審査を行うことで、そうした自身の気の緩みに気づかされ、GAPの理念を思い起こさせられる。審査にはコストもかかるが、情報や刺激が得られ、GAPへの意識を維持・向上することに大きく寄与している。

 

2) GAPの導入について
F社は、2007年にGLOBALG.A.P.認証を取得しているが、その目的は事業マネジメントをより良い形にするためであった。F社はGLOBALG.A.P.以外にも、生産情報公表農産物(JAS規格)の認証も取得している。生産情報公表農産物は、生産に関する情報管理体制と情報開示のレベル向上とその維持を目的とし、GLOBALG.A.P.については、HACCP的安全管理について、取り組むべき内容を具体的に示したテンプレートとして、オペレーションにおける安全管理の標準化に活用している。
2012年には、GLOBALG.A.P.の第4版オプション1個別認証を日本で最初に取得した。さらにF社で開発した農業生産情報管理システムが、GLOBALG.A.P.の認証取得を支援する点などが評価され、第1回GLOBALG.A.P.アワードを受賞している。

3) GAPおよび農場の管理体制
生産の拡大に伴い、管理すべき情報量の増大に直面したF社は、2000年頃から情報管理システムの導入に向けた開発を始め、2001年に生産情報管理及びトレーサビリティーを目的とした情報管理システムを自ら設計・開発した。システム開発に当たっての基本設計における思想は、自らの生産事業の「見える化」と、事故発生時の早期の原因究明及び検証を可能にするという点にあり、これはその後改良した現在のシステムに至るまで変わっていない。
作業記録は作業終了後、自社のデータベースに作業者であるスタッフが入力する。入力内容は、GLOBALG.A.P.と生産情報公表農産物に準拠させた入力内容となっていて、その日の農作業に関する5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)、および収穫の際には収穫したコンテナ数(ニンジンを例にとれば1コンテナを20kgで換算)を入力することになっている。このようなシステムにより、記帳および情報の集約に関し省力化が図られている。
こうした記録の活用方法の一例としては、圃場ごとの収量に関する情報を全社員で共有し、低収量の圃場については、なぜ低収量になったのかなど、その要因を作業者全員で議論し、収量向上につなげている。

4) GAP導入による経営改善効果
これまで述べたように、GLOBALG.A.P.認証および情報管理システムの導入を通して、事業のリスクマネジメントおよび業務の効率化が図られている。また、現在は、GLOBALG.A.P.認証農場間で連携して、販路の拡大に努めている。このような他の農場との連携が可能なのは、GLOBALG.A.P.という共通する工程管理手法を導入する農業者同士ならば、食品安全などの問題を起こしにくいことに加え、何か問題が起きたときに、原因と責任の所在を明確に把握できるからである。